高度プロフェッショナル制度とは?今、求められる働き方を解説

「高度プロフェッショナル制度」(以下、高プロ)は、6月29日に国会で成立された「働き方改革関連法案」で新たに設けられた制度です。政府は「条件を満たした一部の労働者を対象を労働基準法の規制から外し、自由な働き方を可能にすることで成果を上げることができる」と導入のメリットを謳っていますが、実際は労働者にどんな影響があるのでしょうか?
今回は、制度の内容や導入の背景、メリット・デメリット、制度の問題点について解説していきます。

 

目次

1.高度プロフェッショナル制度ってどんな内容?

現在の労働基準法では、企業は従業員が働いた時間に応じて給与を支払うことが定められています。しかし、高プロは実際の労働時間ではなく、“成果”に応じて給与を支払います。労働基準法が適用されないため、労働時間や休日等の規制がなくなり、残業代の支払いも不要となります。対象となる職種は、一部の専門性が高い職種、年収1075万円以上の給与所得者で、制度利用に本人が同意した場合に限り適用されます。

 

2.制度導入の背景は?

人口減少が加速する日本では、年々労働人口が減少し、企業は深刻な人手不足に陥っています。その結果、長時間労働による労働生産性の低下や、「過労死」「自殺」「うつ病」などの問題が相次いでいます。経済産業省による「平成28年度産業経済研究委託事業」によると、長時間労働の原因は、第一位「管理職の意識・マネジメント不足」(44.2%)に次いで、第二位「人手不足(業務過多)」(41.7%)という結果でした。

労働人口の減少は、企業だけでなく国の存続に関わる大きな問題です。このような背景から、政府は「労働時間」に対して対価が支払われる現行の制度ではなく、「成果」に対して対価が支払われる高プロを導入することで、労働者に効率の良い働き方を促し、個々の生産効率を上げることで、企業や国の労働生産性を上げようと考えています。また、効率良く働くことで残業が減り、ワークライフバランスの実現につながることも期待されています。

参考:日本経済新聞社 経済産業省委託事業「平成28年度産業経済研究委託事業(働き方改革に関する企業の実態調査)の報告書」

 

3.反対多数!制度導入までの長い道のり

高プロは、アメリカの制度である「ホワイトカラー・エグゼンプション」と同様の内容で、日本では厚生労働省により2006年末頃から制度の導入が検討されていました。当時は「年収900万円以上、業務の進め方などは自己の裁量に任せ指示を受けない」などの条件を満たす労働者を制度の対象にしようと進めていましたが、「残業代ゼロ法案」「過労死促進」との批判を受け、法案の国会提出は見送られました。

そこで、政府は改めて制度の概要や対象者を見直し、「高度プロフェッショナル制度」として2015年に法案を国会に提出しました。しかし、野党から「長時間労働を助長する」などの反対意見が出され、再び廃案になりました。

そして2018年、今度は「働き方改革関連法案」の中に高プロが盛り込まれ、再び導入に向けて議論されました。しかし、ここでも問題が発生。政府は、高プロ導入の理由を「成果で評価される働き方を希望する方のニーズに応える」と公言しましたが、実際は5社12人にしかヒアリングを行っておらず、うち9人は法案提出後にヒアリングを実施していたという事実が判明しました。このことにより、法案の根拠となるデータに信憑性が無いとされ批判が殺到。野党からは廃案を求める声が上がっていましたが、最終的に2018年6月29日の国会で成立しました。

 

4.どんな職種が対象となるの?

現時点では、次の限られた職種のみが適用対象となっています。

(1)高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められる業務に従事する労働者

・金融商品の開発業務
・金融商品のディーリング業務
・アナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務)
・コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言の業務)
・研究開発業務 等

(2)以上の職種であることに加え、以下の要件を満たす労働者

・書面等による合意に基づき職務の範囲が明確に定められている労働者
・「1年間に支払われると見込まれる賃金の額が、『平均給与額』の3倍を相当程度上回る」水準として、省令で規定される額(1075万円を参考に検討)以上である労働者

 

5.過労死の防止のため企業に義務付けられた取り組み

働きすぎや過労死防止のために、企業は下記の取り組みが義務付けられています。

1.使用者は、客観的な方法等により在社時間等の時間である「健康管理時間」を把握

2.健康管理時間に基づき、
・インターバル措置(終業時刻から始業時刻までの間に一定時間以上を確保する措置)
・1月又は3月の健康管理時間の上限措置
・年間104日の休日確保措置
いずれかを講じるとともに、省令で定める事項のうちから労使で定めた措置を実施

3.併せて、健康管理時間が一定時間を超えた者に対して、医師による面接指導を実施

また、高プロは適用後でも、本人が希望すれば制度の利用を撤回できます。

6.「裁量労働制」との違いは?

高プロに似た制度として、労働者の裁量で働く時間や働き方を決めることができる「裁量労働制」があります。
この2つの制度にはどのような違いがあるのでしょうか?

(1)労働基準法の適用

・裁量労働制
適用されます。

・高度プロフェッショナル制度
適用されません。

(2)残業代の有無

・裁量労働制
「みなし時間」が法定労働時間を超える場合、また深夜・休日に働いた場合は、時間外労働の割増賃金が支払われます。

・高度プロフェッショナル制度
労基法に定める法定労働時間と休息・休日の規定が適用されないため、時間外労働・深夜労働・休日労働の割増賃金が支払われません。

(3)対象となる職種が異なる

・裁量労働制
「専門業務型」「企画業務型」の職種が対象。

高度プロフェッショナル制度
金融商品の開発・ディーリング、アナリスト、コンサルタント、研究開発等。
裁量労働制と一致する部分もありますが、より広い範囲の職種が対象となります。

(4)対象となる年収が異なる

・裁量労働制
年収要件はありません。

高度プロフェッショナル制度
年収1075万円以上が対象です。年収には交通費などの手当も含まれます。

 

7.高度プロフェッショナル制度のメリット・デメリットは?

企業のメリット

労働生産性が向上する
現在の賃金制度では、だらだら仕事をしていても残業をしただけ報酬が増えるため、一人当たりの労働生産性は低くなります。しかし、高プロでは労働時間と報酬が連動しないため、労働者は短時間で成果を出そうと工夫し、結果として労働生産性が向上することが期待されます。

・無駄な残業代が減る
企業は残業代の支払いがなくなるため、人件費の削減につながります。

労働者のメリット

・ワークライフバランスの実現が可能
成果さえ上げれば報酬が得られるため、自分で業務を管理することで、自由な時間に出勤・退勤、短時間労働が可能になります。子育て中・介護中の人はもちろん、趣味や勉強などでプライベートを充実させたい人にとってはメリットが大きいと言えます。

労働者のデメリット

・サービス残業が増える可能性がある
成果主義のため、目標を達成するためにサービス残業が増える可能性があり、長時間労働が横行する、過労死が増えると危惧されています。

・成果を評価しにくい場合がある
成果が目に見えにくい業務(コンサルタント業務)や、成果が出るまでに時間がかかる業務(研究開発業務)などの場合、業務の評価基準が曖昧になる可能性があります。

・人件費削減のために制度が悪用される可能性がある
企業にとっては「合法的に残業代をカットできる制度」になる可能性があります。もともと仕事量が多く残業が多かった人は、残業代をカットされたうえに労働時間は変わらない…という事態に。野党からは「残業代ゼロ法案」「定額働かせ放題」と反対の声が多数上がっています。

・今後、対象となる年収の基準が下がる可能性がある
現在は年収1075万円の人が対象ですが、法案は一度成立してしまえば国会を通さずとも省令で変更可能なため、今後900万円、600万円、400万円と対象年収が引き下げられる可能性があります。基準が下がるほど対象者も増え、サービス残業や長時間労働の拡大が懸念されます。

以上のことから、高プロは企業にとってはメリットが多いですが、労働者にとってはデメリットが多くなるという問題があることがわかります。労働者がメリットを十分に生かすには「自発的な働き方ができる人」「自己管理能力が高い人」である必要があります。

 

8.実際に制度の対象となる人はどのくらいいるの?

全国で高プロの対象となる人は一体どのくらいいるのでしょうか?国税庁の調査によると、全国で年収1000万を超える給与所得者は全体の4.2%と少数で、実際に高プロの対象となる職種はその4.2%のうちの一部です。該当する労働者がどのくらいいるのかは定かではありませんが、全国的に見るとごく少数の人に限られることがわかります。(民間給与実態統計調査, H28.9)しかし、前項でも挙げたように、制度が成立されたあとに対象となる年収が下がる可能性もあるので、今後の動向に要注意です。

参考:国税庁「平成28年分民間給与実態統計調査」

ちなみに岡山県(岡山市)では、個人年収の統計データはありませんが、世帯年収で1000万円を超える人は、世帯総数 294,690世帯のうち6%(16,280世帯)という結果が出ています。この中には個人事業主や共働き世帯も含まれているため、実際に年収1075万円を超える給与所得者はごくわずか。現時点において、岡山県では高プロの影響は少ないと思われます。

 

9.まとめ

高プロは野党や国民の反対意見を押し切り成立しましたが、今後運用が進む中で様々な問題が浮き彫りになりそうです。効率良く働くことができれば、労働者にメリットのある制度ですが、実際は会社からより多くの成果を求められて、責任感の強い人たちは職場から離れられず、長時間労働をせざるを得なくなるケースが増えるのではないかと懸念されています。制度の利用を検討するときは、本当に自分が求める働き方に合っているのかを考えた上で決定しましょう。

地方では高プロの対象になる職種はほとんどありませんが、専門性を持ったエキスパート人材やマネジメント能力を持ったプロフェッショナル人材の需要が高まり、地方企業の優秀人材の獲得競争が激しくなっています。人材不足の影響や、今後の企業の未来を担う人材を確保するため、各社がこれまで以上に中途採用に力を入れており、転職するなら今が絶好のチャンスと言えます。

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