同一労働同一賃金で何が変わる?企業と労働者が受ける影響とは

「働き方改革」の柱である「同一労働同一賃金」が可決・成立し、大企業は2020年度、中小企業は2021年度を適用時期にするとして国は準備を進めています。同一労働同一賃金が導入されると、私たちの働き方はどのように変わるのでしょうか?そこで今回は、制度の概要と導入の背景、導入のメリット・デメリットなどを解説します。

 

目次

1.同一労働同一賃金とはどんな制度?

同一労働同一賃金とは、勤続年数や雇用形態によって賃金が決まるのではなく、労働者の職務経歴や能力によって賃金が決まるという制度です。簡単に言うと、「同じ内容の仕事をする労働者は、フルタイム、パートタイム、派遣社員などの雇用形態に関わらず、同水準の賃金が支払われるべき」というものです。この制度は、正規雇用労働者(以下、正社員)と非正規雇用労働者(以下、非正規社員)の不合理な待遇差をなくすことを目指して設けられました。

同一労働同一賃金の対象には、賃金だけでなく教育訓練や福利厚生も含まれています。
具体的には次のようなものが対象となります。

・基本給
・昇給
・賞与
・各種手当
・教育訓練
・福利厚生(施設利用、年休・休暇制度等)

 

2.制度導入の背景

現在、日本全体の非正規社員数は2,000万人を超え、労働者全体の約40%を占めています。しかし、正社員と非正規社員の賃金格差は大きく、正社員に対する非正規社員の賃金水準は、ヨーロッパ諸国では7~8割程度であるのに対して、日本では6割弱となっています。
その一方で、日本は少子高齢化により深刻な労働力不足に陥っています。
そこで政府は、同一労働同一賃金を導入することで正規と非正規の賃金格差を無くし、現在子育てや介護などでやむを得ず非正規として働いている人たちの正社員化の促進を図ったり、これまで働いていなかった人たちの雇用を促進することで、働き手不足を解消しようと考えています。また、賃金格差が少なくなることで個人消費が増え、日本の経済が活性化することや、家庭を持つ人が増え、出生率が上がることで、少子化に歯止めがかかることも期待されています。


(参考)厚生労働省「「非正規雇用」の現状と課題」

 

3.合理性の有無はどんな基準で決まるの?

多くの企業では、正社員の給料に基本給とは別に「賞与」や「手当」が付くと思います。現状では非正規社員の場合は支給されない場合もあるのではないでしょうか。同一労働同一賃金が導入されると、これらは雇用形態ではなく「合理性」の有無で支給が決まるようになります。

一部の例をご紹介します。

・賞与
会社の業績に対し同一の貢献を行った非正規社員には、正社員と同一の基準によって支給をしなければなりません。

・通勤手当、食事手当、地域手当、皆勤手当、深夜勤務手当等
雇用形態に関わらず、支給基準や支給額は同一とします。

・役職手当、資格手当等
雇用形態に関わらず、同じ役職に就く・同じ資格を持つ場合は同一の支給とします。正社員と非正規社員で責任に一定の違いがある場合は、その違いに応じた支給が認められます。

・住宅手当、家族手当等
転勤・子どもの有無により支払いが認められます。

今回の法改正では、入社時及び労働者の要求時に、正社員と非正規社員の賃金制度はなぜ違うのか、待遇差に関する説明が義務付けられます。企業は、合理性の有無をきちんと労働者に説明できるようにしておかなければなりません。

 

4.同一労働同一賃金のメリット・デメリット

同一労働同一賃金は賃金格差の是正が目的ですが、労働者と企業にはどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?

【正社員】

メリット

・年功序列が無くなる
・優秀な高齢者の再雇用促進
・男女格差の是正が見込まれる
・外国人労働者の待遇改善

デメリッ

・収入が減る可能性がある
・年功序列がなくなる
・失業率が高くなる
・モチベーションが下がる

【非正規社員】

メリット

・正社員と非正規社員の賃金格差が無くなる
・仕事へのモチベーションが上がる
・働き方の選択肢が広がる
・能力やスキルの向上

デメリット

・仕事への評価がシビアになる可能性がある
・同じ賃金をもらっていることで休みにくい環境になる
・非正規社員間で賃金格差が広がる

【企業】

メリット

・社員のパフォーマンスが上がる
・優秀な人材の定着率が向上する

デメリット

・人件費が高騰し、企業の雇用意欲が下がる可能性がある
・非正規社員を選べなくなる可能性がある

 

同一労働同一賃金の実現のために企業が取る手段は、必ずしも非正規社員の処遇改善ばかりではありません。特に、処遇改善のために人件費が増えるということは、企業にとっては大きな問題です。経営資源が不足する中小企業や小規模企業では、労働者を優遇する措置をとる余裕がないということが大きな課題となっています。

5.賃金格差の是正に関する事例

前項でメリット・デメリットを挙げましたが、具体的な事例をご紹介します。

(1)メリットの事例:非正規社員の待遇が改善された

メリットに挙げた、正規と非正規の賃金格差が無くなるケースとして、ハマキョウレックスという物流会社の契約社員が提訴した裁判の事例があります。本件では、正規と非正規の仕事内容が同じにも関わらず、各種手当が支払われないことは不合理だとして、ドライバーが会社に対して賃金の支払いを求めました。判決では、各種手当のうち住宅手当については、正社員と契約社員の間に「転勤の有無の差」があることから支払いは認められませんでしたが、無事故手当、作業手当、給食手当、皆勤手当については、正規と非正規の条件に差がないとして、「支払われないのは不合理だ」と認定されました。

(2)デメリットの事例:正社員の待遇が下げられた

デメリットに挙げた、正社員の収入が減ってしまうケースとしては、日本郵政グループの事例があります。2018年4月、日本郵政グループは、原則として転居を伴う異動のない正社員約2万人のうち、約5千人に支給している住居手当を同年10月に廃止することを発表しました。この住居手当は正社員のみ支給されているもので、正社員の処遇を下げることで非正規社員との格差を是正する格好となりました。

6.まとめ

同一労働同一賃金の実現にはたくさんの課題があります。しかし、「正社員だから」「勤続年数が長いから」と言った理由ではなく、仕事の内容と成果によって賃金が上がるということは、若い世代や今まで非正規社員として働いてきた人たちにとって大きなチャンスでもあります。この法改正により、賃金などの待遇に関する格差が無くなることで労働者の労働意欲が上がり、雇用形態によらず能力を発揮できる環境が整えられていくことを期待しています。

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