平成25年4月、高年齢者雇用安定法により、企業は従業員が希望すれば65歳まで働き続けられる仕組みを整備することが義務づけられました。これにより、労働者は希望すれば65歳まで働けるようになりましたが、若い世代の人口が減り続ける中で、高齢者を労働市場に呼び込む必要性は今後ますます高くなっていくでしょう。そこで今回は、超高齢化社会における高齢者雇用の現状と、これから求められる高齢者の働き方について解説します。
目次
1.少子高齢化に伴う人手不足と高齢者雇用
超高齢化社会、少子化により労働力不足が深刻化したことで、定年後の高齢者を企業が再雇用する動きが加速しています。
下図からも分かるように、2060年には日本の総人口は8,674万人まで減少し、そのうち65歳以上が全人口の約40%を占めるようになります。このような状況下において、労働力供給を増やすことはわが国にとって重要な課題であり、経験や知識・スキルを持った高齢者は企業の重要な労働力となっています。
(参考)職業安定分科会雇用保険部会(第104回)「高年齢者雇用の現状について」,平成27年9月
2.いま、働きたい高齢者が増えている
人生100年時代と言われる現代では、生活のために定年後も働き続ける高齢者が年々増えています。総務省の調査によると、平成28年の高齢者の就業者数は13年連続で増加し、770万人と過去最多となり、その割合は全就業者のうち11.9%を占めています。
(参考)総務省「統計からみた我が国の高齢者(65歳以上)」(平成29年9月)
(1)60歳以降の就業希望年齢
内閣府が35~64歳の男女を対象に、60歳以降の就労希望年齢を調査したところ、「65歳を超えて働きたい」と回答した人は約5割を占め、そのうち「70歳くらいまで」と回答した人が20.9%、「働けるうちはいつまでも」と回答した人は25.7%という結果となりました。
(参考)職業安定分科会雇用保険部会(第104回)「高年齢者雇用の現状について」,平成27年9月
(2)高齢者の就業理由
高齢者の就業理由については、厚生労働省の調査では、60~64歳までは「生活の糧を得るため」が最も多いですが、65~69歳では「健康にいいから」「いきがい、社会参加のため」といった理由が「生活の糧を得るため」とほぼ同じ割合に増えています。
(参考)職業安定分科会雇用保険部会(第104回)「高年齢者雇用の現状について」,平成27年9月
一方で別の調査では、65~69歳の就労理由として「経済上の理由」が約5割を占めており、そのうち生活が苦しいと感じている人は約2割程度となっています。こちらの調査によると、「健康上の理由」や「いきがい、社会参加のため」の割合は低く、生活のために働いている高齢者が多いことが分かります。
(参考)職業安定分科会雇用保険部会(第104回)「高年齢者雇用の現状について」,平成27年9月
以上の調査結果をまとめると、65歳以上になっても働く理由は、「経済的な問題」と「いきがい」に大きく分かれていることが分かりました。
しかし、いずれの理由にせよ、定年後に働くことを希望する高齢者の数は年々増加しており、高齢者雇用の重要性は高まってきている言えます。
3.高齢者雇用の課題
前述の通り、高齢者雇用の重要性は高まってきています。しかし一方で、企業の受け入れ態勢は万全とは言えません。
なぜ企業は積極的に進められないのでしょうか?その理由をいくつかご紹介します。
(1)65歳を超える継続雇用が難しい
定年を迎えた高齢者は、これまで蓄積してきた経験と能力を生かせる仕事を一から見つけることが難しいため、多くの場合は今まで勤めていた企業で継続的に働くことを望んでいます。しかし企業としては、高齢者を定年前と変わらない仕事内容と処遇で雇用を延長すると、「新たな人材を採用できない」「人件費が増える」「若い世代の経験や能力を高める機会が損失する」などの問題から、希望者全員を継続雇用することを避けたいと考えている場合も多いようです。
労働政策研究・研修機構の調査によると、高齢者の雇用・就業のあり方に関する企業の考え方について、一番多いのが「選別して適合者を雇用したい」(55.6%)で、「希望者全員を雇用したい」は27.8%となっています。このことからも、65歳を過ぎた高齢者は働く意思があったとしても、必ずしも今まで働いてきた企業で働き続けることができるとは限らず、最悪の場合失業してしまうケースも考えられます。
(参考)労働政策研究・研修機構「60代後半層の雇用確保には、健康確保の取組みが必要」(平成28年6月)
また、厚生労働省の調査によると、高齢者の雇用について「特に問題はない」とする企業が約3割でしたが、その一方で、
「高年齢社員の担当する仕事を自社内に確保するのが難しい」…27.2%
「管理職社員の扱いが難しい」…25.4%
「定年後も雇用し続けている従業員の処遇の決定が難しい」…20.8%
「人件費負担が増す」…16.1%
という課題を抱えている企業が多いことも見えています。
(参考)厚生労働省「第44回 雇用対策基本問題部会資料(資料3)」
(3)処遇と仕事内容が合わない
処遇については、企業が役割に対する賃金基準を定めていない場合にトラブルになりやすいです。定年後の再雇用では、賃金が定年前の5~7割に減ってしまうのが一般的です。これは担当する仕事、能力、定年時の賃金や職位等を考慮して決められますが、実際には「定年前と働く時間も仕事の内容も変わらないのに賃金が減った」というケースが多いです。2019年度から同一労働同一賃金が適用されることもあり、今以上に会社と労働者の間で賃金トラブルが発生することが予測されます。このような問題を防ぐためには、企業は労働者に対し、再雇用の契約時に賃金の違いとその根拠をしっかりと説明し労働者の同意を得ておくことが重要です。
(4)健康確保が難しい
65歳を超えた頃から、健康面で不調を訴える人も増えてくることが予想されます。労働政策研究・研修機構の調査によると、60歳代後半層の雇用確保に必要となる取り組みを企業に聞いたところ、「健康確保措置」が34.9%で最も多い結果となりました。
健康確保措置のために企業で取り組まれている事例をご紹介します。
・健康チェックリストの活用
・医師による仕事内容変更の提案
・残業規制等の配慮
・ラジオ対応の活用
・仕事の負担を軽くする(配置転換等)
・職場の環境改善(休憩室の設置、冷暖房器の設置、熱中症対策等)
・注意喚起(広報誌、マニュアル、研修等)
(参考)労働政策研究・研修機構「60代後半層の雇用確保には、健康確保の取組みが必要」(平成28年6月)
5.まとめ
労働人口の加速が進む今日、日本の経済を支えるためには、国全体として高齢者を労働力として活用することがカギとなります。今後、高齢者の定年延長や再雇用がますます進み、定年という考え方自体が薄れていく可能性も少なくありません。
また、高齢者が定年後も継続して働くことには、労働者自身にも様々なメリットがあります。
・年金以外の収入が得られる
・健康維持
・生きがいにつながる
・人の役に立つ、社会とつながりがある など
労働者は自らの経験や能力・知識を生かして、定年後も働き続ける選択肢があるということを知っておくと、自分のキャリアをどうしていくか、今何をしておくべきかを考えるヒントになるかもしれません。人生100年時代。生涯現役でいるために、自分の経験や能力の棚卸をし、今後のキャリア設計を行ってみませんか?