新卒採用は日本独自の文化?世界の就活事情を比較

今年9月、経団連が就活ルールの廃止を表明しました。現在は、大学4年生の3月から会社説明会、6月から面接スタートという採用ルールを定めていますが、経団連ルールが廃止されることで、企業・学生の両者に大きな影響を及ぼすことが懸念されています。

ところで、世界ではどのようなスタイルで就職活動が行われているのでしょうか。日本のように大学生の就職活動にルールはあるのでしょうか。
本記事では、日本と外国の就活の違いを比較し、就活ルール廃止がもたらす就職活動への影響を考えていきます。

 

目次

1.就活ルール廃止の背景

経団連の就活ルール廃止の背景には、人材獲得競争が年々激化しているという現状があります。少子化の影響で日本の労働人口が年々減少していることから、近年は学生の超売り手市場が続いています。そのため、少しでも早く、一人でも多く、優秀な人材を確保するために、経団連のルールを守らない企業が増え、ルールを順守する企業から不平不満の声が上がっていました。

株式会社ディスコの調査によると、現行ルールが大学4年生の6月に面接解禁なのに対し、2019年卒の採用については、5月より前に面接を始めた従業員1000人以上の企業は76%、5月1日時点の内定率は42.2%という実態が明らかになっています。

ルールを守れば不利になる、必要な人材が確保できない…このような状況を解決し、企業の現状に即した採用活動を実現させるために、経団連は今回のルール廃止に踏み切ったようです。

【参考】日本経済新聞電子版「面接解禁前に内定4割 就活ルール形骸化一段と」(2018年5月8日)

 

2.これからの就活は何が変わるの?

これまで、大学生の就活ルールは経団連がルールを決めていましたが、今回のルール廃止により、就活時期の規定だけでなくインターンシップに関する規定もなくなります。

経団連ルールの廃止後、それに代わる就活ルールはまだ確定していませんが、2021年春入社の学生の就活日程は現行スケジュールを維持する方向性が示されました。また今後は、政府と大学関係団体がルールを定め、企業と大学に要請するという形式になるようです。

今回のルール廃止による影響として、新卒一括採用から通年採用の企業が増えることが予想されています。もともと、経団連による就活ルールには法的拘束力はなく、一部の企業でスケジュールより早く採用活動を始めたり、通年採用を行うケースもあったのですが、現行ルールが無くなることで、優秀な学生を早く確保するために、採用活動の手法や時期を見直す企業が増えるのではないかと言われています。

 

3.就活ルール廃止で懸念されていること

現状の就活ルールが廃止されることで、様々な問題が懸念されています。学生・企業にはどのような影響があるのでしょうか。

(1)学生の就職活動の長期化

就活期間の定めが無くなることで、少しでも早く良い企業から内定をもらうため、大学1、2年の早い時期から就職活動をはじめる学生が増えることが予想されます。そして内定をもらった後も、良い条件の企業があれば卒業まで就活をし続けるため、就活が長期化する可能性があります。これにより、本業である学業に専念できなくなるのではないかという不安の声が上がっています。

(2)内定辞退が増える

(1)で挙げた理由から、早い段階で内定を得た学生の「内定辞退」が懸念されています。学生は、卒業するまで内定企業をキープできるので、じっくり就職先を選べるというメリットがあります。しかし、企業にとっては、コストと労力をかけて採用した学生に内定辞退されるリスクが増える可能性があります。

(3)企業の採用活動の長期化

内定辞退が相次ぐことで、企業の採用が長引くことが予想されます。採用活動が長期化すると、採用にかかるコストや人員の負担が膨らみ、経済的にも人員的にもパワーがない中小企業の経営を圧迫してしまう危険があります。

(4)大手企業の青田買いで、中小企業が人材確保に苦戦

大手企業が我先にと優秀な学生を確保してしまうことで、中小企業は人材の確保に苦戦することになるでしょう。特に地方中小企業に大きな影響があると予想されます。

(5)日本企業の競争力が落ちる

学生が1、2年生の早い時期から就活を始めることで、学業に専念できなくなり、結果として学生の質が落ちる可能性があります。そのような学生が増えることで、日本全体の企業のレベルや競争力が下がることが懸念されています。

 

4.世界の就活ルールは?日本の就活との比較

ここまでは日本の就活についてお話ししてきましたが、世界ではどのような就職活動が行われているのでしょうか。日本のように新卒一括採用は行われているのでしょうか。

2018年の世界GDPランキングTOP10から一部の国の就活をご紹介します。

(1)アメリカの場合

アメリカには「新卒採用」という枠組みはありません。「実務経験と能力」を重視するアメリカでは、人員の空きが出たときに即戦力となる人材を確保するという「通年採用」を行っています。日本のように採用してから人材を育てるということは行わないため、実務経験の無い新卒は中途採用と比べて不利になります。そのため、学生は長期インターンシップに参加して実務経験を積むのが一般的です。

また、アメリカでは大学での専攻や成績も採用時に重視されます。一定の成績を応募の条件に設ける企業も多いことから、学生は一生懸命学業に励みます。

このように、アメリカの就職活動では、学生は専攻を決める段階から自身のキャリアパスを決定し、それに向けて知識と経験を積んでいくことが、内定獲得の必須条件となります。

(2)中国の場合

中国では日本と同様に新卒一括採用の文化があり、説明会や面接の開始時期などスケジュールも決められています。中国の就活は、近年、「AI人材」の需要が高まっており、AI分野の名門大学で学んだ学生たちは引く手あまたという状況です。また、グローバルに活躍する上で「英語力」も重視されています。

一方、それ以外の専攻の学生、学力があまり高くない学生は、希望の企業に就職することが難しくなっています。その背景には、大学等を卒業する学生が急増したという問題があります。中国は現在「史上最悪の就職難」と言われており、1998年に約87.7万人だった学生が、2018年には800万人を突破しました。

以前の中国といえば「学歴社会」であり、名門大学に入ることが希望の企業に就職するための必須条件でした。しかし、学生増加の問題により、学歴だけでは就職が難しい状況になっています。特に、人気業界の専攻ではない学生、学力がさほど高くない学生については、自身の市場価値を上げるべく、長期インターンシップに参加し実務経験を積んでいる状況です。

【参考】日経ビジネスONLINE「卒業=失業?新卒800万人の中国就活事情」(2017年11月30日)

(3)ドイツの場合

ドイツには「新卒採用」という枠組みはありません。アメリカと同様、「即戦力」になるかどうかが重視されます。そのため、大学のレベルは評価の対象にならず、「成績」「インターンシップ経験」「語学力」を重視します。それに加え、入社を希望する企業の職務に合う「専攻」をしているかどうかが重要となります。そのため、就活のために大学の専攻を変更したり、中退して大学に入り直す学生も少なくありません。

ドイツでは、インターンシップに参加すると、退職時に「職歴証明書」を発行してもらえます。この証明書は、職務経験や職場で発揮できた能力などを上司がまとめたもので、就活のときに客観的な視点で企業に職歴をアピールすることができます。また、面接においても、過去にどのような仕事(インターンシップ)を経験したか、どのような技術と能力を持っているかをアピールすることが重要となります。

それから、ドイツでは就活のタイミングは就学中ではなく、卒業してから行うのが一般的です。ドイツの大学は日本のように卒業時期は決まっておらず、大学の課程を終え、論文を提出して卒業証書を受け取れば卒業ができます。しかし、企業では、7月~9月の夏休みシーズンと11月~12月のクリスマス・年末シーズンは、採用活動をほどんど行いません。

(4)イギリスの場合

イギリスにも「新卒採用」という枠組みはなく、「即戦力」になるかどうかを重視します。ドイツと同様、「職務経験」「語学力」が求められるため、学生は長期インターンシップに参加するのが一般的です。もちろん、どんな学部を専攻したかも重視されます。企業からは、大学や企業からの「推薦状」の提出が求められるため、推薦してもらうために、インターンシップ中に良好な人間関係を築けるかどうかも大切なポイントです。

そして、イギリスは学歴社会のため、名門校を卒業すれば高待遇で就職することができます。このことからも、大学を選ぶ段階から就活が始まっているといっても過言ではありません。

卒業後はすぐには就職せず、アルバイトやインターンシップで経験を積みながら就活を行うケースが多く、非正規から正規の職にキャリアアップしていくのが一般的です。

(5)フランスの場合

フランスも、ドイツ・イギリスと同様、「新卒採用」という枠組みはなく、「即戦力」になるかどうかを重視します。そのため、長期インターンシップに参加して職務経験を積みます。

また、フランスでも大学での「専攻」が重視されるため、早い段階で将来どのような仕事がしたいのかを考えて専攻を選ぶ必要があります。また、イギリスと同様に学歴社会のため、名門校を卒業すれば高待遇で就職することができます。

就活のスタイルとしては、自分で企業にコンタクトを取る以外に、インターンシップからの就職や、職業あっせん、紹介(いわゆるコネ)で仕事を見つける人も多いです。インターンシップ後にそのまま就職しない場合は、卒業後は無職になりますが、非正規から正規の職にキャリアアップするのが一般的なため、アルバイトをしながら経験を積み、就活を行います。

 

5.まとめ

ご紹介した海外の事例からも分かるように、外国の採用は「即戦力」重視が一般的であり、「新卒一括採用」は日本特有の文化ということが分かります。外国の労働市場は流動的で、キャリアアップのために転職は当たり前、人員の空きが出たら人を雇うという社会です。そのため、日本のように時期を決めた一斉採用は行いません。

しかし、日本もこれから労働人口がますます減少することを考えると、即戦力となる人材であれば、外国のように新卒も中途も関係なく採用したいという企業が増えていくことが予想されます。特に地方中小企業は、通年採用、青田刈りで優秀な新卒学生を採用することが難しくなれば、より中途採用で即戦力を求めるようになる可能性があります。

日本でも、新卒と中途が同じ土俵で戦うことになる日が来るのも、そう遠い未来ではないかもしれません。

このような状況からも、これから転職を考えている人は、自分が進みたい業界・業種について、より深い知識と経験を身に着け、自分の強みやキャリアビジョンを明確にさせておくことが重要と言えます。

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