裁量労働制は自由な働き方なのか?裁量労働制に合う職種と合わない職種

いま、裁量労働制に関する国会の議論が世間を賑わせています。政府は今国会で「働き方改革」の取り組みの一つとして、「裁量労働制の拡大」を労基法改定案に盛り込もうとしていました。安倍首相が「裁量労働制の労働者の労働時間は、一般労働者より短い例もある」という答弁をしたところ、その根拠となる厚生労働省のデータが不適切であったとして、今国会での法案提出を断念することになったという話は記憶に新しいかと思います。また、裁量労働制は「定額働かせ放題」とも呼ばれており、長時間労働を悪化させる原因となることが危惧され、野党や多くの労働者から反対の声が上がっています。
本記事では、制度の概要や導入の背景、メリット・デメリットなどについてお伝えします。

※文中に出できますが、みなし労働時間制には2種類の制度あります。
・事業場外みなし労働時間制
・裁量労働制

更に裁量労働制の中に2種類の制度があります。
・専門業務型裁量労働制
・企画型裁量労働制

 

1.裁量労働制とはどのような制度なの?

(1)制度の概要

<働き方>

●出退勤の時間が定められていない
業務の時間管理も個人の裁量に任されているため、出退勤時間も自由に選択できます。

●業務の遂行手段や納期管理の裁量はすべて労働者に委ねられている
仕事をやり遂げる上で、仕事の手段やかける時間、進め方を、自分の裁量でコントロールすることができます。また、上司や周りの社員は、対象者の業務について指示を出したり管理することはできません。

<労働時間>

●労働時間は労使間で定めた「みなし時間」が適用される
実際の労働時間に関わらず、みなし時間分を働いたとみなされます。みなし時間は労使間で定めます。

●みなし時間が法定労働時間を超える場合は36協定を結ぶ
労働基準法は適用されるため、みなし時間が法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える場合は、36協定を結ぶ必要があります。

<給与>

●みなし時間に応じた給与が設定される
みなし時間で給与が計算されるため、実際の労働時間に関わらず給与額は固定となります。また、法定労働時間を超える労働については割増賃金を支払う必要があります。また、休日・深夜労働についても同様に割り増し賃金が発生します。

●みなし時間を超えて働いても残業代が支給されない
例えば、みなし時間を8時間に設定している場合、10時間働いたとしても残業代は支払われません。逆に、6時間しか働いていない場合は、みなし時間である8時間分の給与が支払われます。

みなし残業に関する記事はこちら
みなし残業(固定残業)はどこまで許されるの?会社員が知るべき残業の規定とは

●適用できる職種が限られている
こちらについては(3)で解説します。

(2)制度導入の背景は?

労働基準法では、労働時間に対して賃金を支払うことが定められています。しかし近年は、コンサルタントや研究者のように、労働時間と成果がイコールでない職種も増え、従来の働き方・賃金制度では効率が悪く働きにくいということが問題になっていました。そこで、成果に応じて賃金を払い、多様な働き方を実現させるために裁量労働制が導入されました。

厚生労働省の調査によると、裁量労働制を含むみなし労働時間制を採用している企業割合は 14.0%となっており、これをみなし労働時間制の種類別にみると、「事業場外みなし労働時間制」が 12.0%、「専門業務型裁量労働制」が 2.5%、「企画業務型裁量労働制」が 1.0%となっています。全国的に見ても導入している企業はほんのわずかというのが現状です。

(3)制度が適用される職種と制度導入にあたっての企業の義務は?

裁量労働制は対象となる職種が決まっています。また導入までの流れや手続きも異なります。

専門業務型裁量労働制

【職種】
一部の専門職に限って認められます。

【企業の義務】

労働者の健康・福祉の確保に関する措置
健康・福祉確保措置をどのように講ずるかを明確にするためには、対象労働者の勤務状況を把握することが必要。
使用者が対象労働者の労働時間の状況等の勤務状況を把握する方法としては、対象労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間在社し、労務を提供し得る状態にあったか等を明らかにし得る出退勤時刻又は入退室時刻の記録等によるものであることが望ましいことに留意することが必要。

<健康・福祉確保措置の例>
・把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること
・把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、健康診断を実施すること
・働き過ぎの防止の観点から、年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること
・心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること
・把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること
・働き過ぎによる健康障害防止の観点から、必要に応じて、産業医等による助言、指導を受け、又は対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせること

労働者の苦情処理に関する措置
苦情の申出の窓口及び担当者、取り扱う苦情の範囲、処理の手順・方法等を明らかにすることが望ましいことに留意する。
使用者や人事担当者以外の者を申出の窓口とすること等の工夫により、対象労働者が苦情を申し出やすい仕組みとすることや、取り扱う苦情の範囲については対象労働者に適用される評価制度、賃金制度及びこれらに付随する事項に関する苦情も含むことが望ましいことに留意する。

参考:東京労働局・労働基準監督署「専門業務型裁量労働制の適正な導入のために」

企画業務型裁量労働制

【職種】
事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて、企画、立案、調査及び分析を行う労働者を対象としています。専門業務型は対象職種が限定されていますが、企画業務型においては知識や経験を有する労働者を対象としているだけで、厳密な決まりはありません。

【企業の義務】

労働者の健康・福祉の確保に関する措置
1.対象労働者の勤務状況を把握する方法を具体的に定めること。
2.把握した勤務状況に応じ、どういう状況の対象労働者に対しいかなる健康・福祉確保措置をどのように講ずるかを明確にすること。
※健康・福祉確保措置の例は「専門業務型裁量労働制」と同様。

また、上記と併せて次の事項についても決議することが望まれます。

・使用者が対象となる労働者の勤務状況を把握する際、併せて健康状態を把握すること。
・使用者が把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、対象労働者への企画業務型裁量労働制の適用について必要な見直しを行うこと。
・使用者が対象となる労働者の自己啓発のための特別の休暇の付与等能力開発を促進する措置を講ずること。

労働者の苦情処理に関する措置
対象となる労働者からの苦情の申出の窓口及び担当者、取り扱う苦情の範囲など、措置の具体的内容を決議で定めること

参考:東京労働局・労働基準監督署「「企画業務型裁量労働制」の適正な導入のために」

 

2.今後導入が検討されている職種

今国会では裁量労働制の範囲拡大が見送られましたが、今後、下記の対象者の追加も検討されています。

課題解決型提案営業
顧客(法人顧客)の事業について企画・立案・調査・分析を行った上で、その結果を活用して営業(商品やサービスの販売のための営業)を行う業務

裁量的にPDCAを回す業務
自社の事業について、繰り返し、企画・立案・調査・分析を行い、その結果を活用して事業の管理・実施状況の評価を行う業務

 

3.労働者のメリット・デメリットは?

実際に裁量労働制で働く人たちはどのようなメリット・デメリットを感じているのでしょうか?

メリット

・業務を自分でコントロールして働くことができる
・出社時間・退社時間が自由になる
・ワークライフバランスが実現できる

デメリット

・適用前より残業や休日出勤が増える可能性がある
・みなし労働時間と実労働時間がかけ離れている
・みなし労働時間を超えた労働時間に対して割増賃金が支払われない
・企業が残業代カットを目的に、本人に裁量がないのに制度を適用する可能性がある

一見、本人の裁量で自由に働ける本制度はメリットが大きいように思われますが、デメリットもたくさんあることがわかります。なぜこのような問題が起こるのでしょうか?次項で詳しく説明していきます。

 

4.裁量労働制が抱える問題と原因

裁量労働制で長時間労働が増える原因には、下記のような理由が挙げられます。

(1)自分の裁量で仕事をさせてもらえない

本来、裁量労働制は業務遂行の方法や納期管理を個人の裁量に任せる制度です。それにも関わらず、上司から業務の指示を受けたり労働時間を指図されるという問題が発生しています。このような場合は、制度の内容が社内で周知されていないか、悪質な場合は意図的にそのような行為を行っている可能性があります。

(2)他の人のサポートに回されて残業しなければならない

例えば、裁量労働制が適用されているAさんが、自分の業務が終わったため14時に退社しようとしました。ここで考えられる周りの反応は次のようなケースです。

「早く仕事が終わったなら周りを手伝うべきだ」
「仕事に余裕があるならこの仕事とあの仕事もやってもらおう」

このように、「人の顔色を伺う」「周りに合わせなければならない」という、“空気を読め”という日本の風土が裏目に出て、結果として残業をせざるを得ない状況に追い込ます。このような場合は、「自分の裁量で仕事をさせてもらえない」の問題と同様に、制度の内容が社内に周知されていない可能性があります。

(3)みなし時間が適切でない

例えば、「月に100時間以上の残業があるにも関わらず、月に40時間の残業を想定した給与しか支払われていない」というケースです。このような場合は、企業が残業代をカットし、従業員を安く使おうという理由で制度を導入している可能性があります。すでに裁量労働制が適用されている人で「これってもしかして…」と思う人は、労働基準監督署や専門家に相談されることをおすすめします。

 

5.裁量労働制のメリットを生かして働くために

裁量労働制は適切に運用されれば、本来は労働者にとってメリットがある制度。しかし、従来の働き方に対する考え方をなかなか変えられない管理職や、自分たちと違う働き方をすることに納得がいかない社員たちがいるのも確かです。この問題を解決するためには、経営トップは対象者だけでなく、社員全員に制度の内容を説明し、様々な立場の社員が働きやすい環境を整えていくことが必要です。また、制度を悪用しようとする企業については、法的にしかるべき対応をする必要もあります。

労働者側が気を付ける点としては、労働契約を結ぶときは契約内容をよく確認し、疑問があれば必ず事前に企業に確認しましょう。担当者が返事を濁したり、曖昧な回答をされた場合は違法な働かせ方をしている可能性があります。また、入社後は就業規則をきちんと確認しておきましょう。

働き方についても、気持ちよく働くためには周りへの配慮が必要です。与えられた業務に対する裁量は自分にあるとはいえ、自分勝手な行動を取ってよいというわけではありません。会社は組織であり、時と場合によって社員同士が協力し合うことも必要なこともあります。どれだけ仕事で成果を出して貢献したとしても、人間として魅力がない人、尊敬できない人とは一緒に働きたくないものです。自分ひとりで働いているわけではないことを肝に銘じておきましょう。

 

6.まとめ

裁量労働制の導入・拡大にはまだまだ多くの課題があります。この制度を上手く活用するためには、会社自体の残業体質の改善や意識改革が欠かせません。裁量労働制のメリットを労働者が十分に生かせるように、政府は単に制度を拡大するだけでなく、違法な企業を取り締まるための法律の整備や罰則の強化も同時に進めていってほしいものです。

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